~第6話~おうちにかえりたい

タクシーという名のジェットコースターは俺たちの目的地ニューデリー駅に着いた。

タクシーが目的地に着くのは当たり前だと思うかもしれないが、それは日本だけの常識だと考えたほうがよさそうだ。

ニューデリー駅前にメインの通りがある。

その名も「パハールガンジー

そこにいい宿があるとインドへ行った事のある友達に聞いてきた。

まずはホテルをとらないといけない。

いきなり野宿は恐ろしすぎる。

とりあえず駅のロータリーを出て、向かいに見えるバザールの入り口に向かった。

「おい!!チケットは持ってるのか!?」

一人のインド人が両手を広げて俺たちの行く手をさえぎる。

「なんのチケットだよ??」

と、安藤が返す。

「まぁいい、インドは初めてか?」

「そうだけど・・・」

「これからどこに行くんだ?」

「メインバザールだけど?」

「OH!!危ない!!絶対行っちゃだめだ!」

「!?なんでだよ!?」

「ナイフで刺される、強盗にあう、スリにあう!」

(ま・まじかよ・・・ありえなくはないしな・・・)

「とりあえず俺が政府の観光局を教えてやるからそこへ行けよ!」

「なんだそれ??」

「ちょっとこっち来て!ガイドブックは持ってるか?」

俺は3回くらいしかめくったことのない地球の歩き方を出した。

「いいか。ここにDTTDCって書いてあるだろ?ここに行くといい」

そう言って地図を指差す。

「ここはタダだし、相談に乗ってくれる。ホテルもここで予約できるから」

「どうする??安藤?」

「メインバザールは危ないっぽいし、行ってみようか!」

この瞬間に名前をつけるのであればぴったりの名前が見つかった。

「悲劇の始まり」
である。

「とりあえずリクシャーに乗れよ!50Rsでここまで連れてってくれるから!」

そういってリクシャーの溜まり場へ俺たちを連れて行く。

「リクシャー」とはインドのタクシーで、昭和のオート三輪みたいな乗り物だ。

三輪車で町中をスイスイ走り抜けてゆく。

もちろんラクションは鳴らしっぱなし、車が通れるスペースさえあればどこでも走るやっかいな乗り物だ。

名前の由来は日本の「人力車」から来てるらしい。

俺たちは言われるがままリクシャーに乗りDTTDC(政府観光局)へ向かった。

少し走るとリクシャーが止まった。

「さぁ!着いたぜ!」

小さい店の入り口のドアには「DTTDC」の文字。

DTTDCとは政府観光局の目印みたいなもんだ。

(この時俺は心の中でこの状況を少し疑っていた)

店に入るとおでこに赤い点を付けた完全なまでにうさんくさいおっさんが出てきて、奥の方に連れて行かれた。

何個かの仕切りで区切っただけの部屋。

どこかで見たことあるこの風景。

そうだ。

ピンサロだ。

そのうちのひとつの部屋に案内され俺たちは椅子に腰掛けた。

日本語を巧みに使うおっさんが世間話を始めた。

「どこから来た?」

「インドは初めて?」

「どこへ行きたい?」

など、平凡な話をしているうちに打ち解けてきた。

「とりあえずデリーで泊まるホテルを探してるんだけど」

「おー!ホテルなら今ここで予約できますよ!」

「いくら?」

「お勧めは600Rsのホテルで結構いいところですね!」

「高いなぁ・・・」

俺たちは最初、デリーからムンバイに行き、そこからインドの楽園ゴアに行こうと計画を立てていた。

だが、安藤が10日間で帰らないといけないから、10日後にはデリーに戻りたい。

その計画を赤い点に向かって話すと、それは難しいと言う。

年末のゴアは多くの観光客が押し寄せるため、今からだと列車が取れないというのだ。

しかも予算はいくらと聞かれ

安藤は「一週間で○○ドル」

俺は「45日で3万だ!」

と言うと爆笑された。

「3万で45日インドにいれると思ってんのか!?」

と馬鹿にされる日本人。

そういやなんかこいつ・・・ムカつく。

顔がムカつく!

てかさっきからおでこの赤い点が、こすったのかなんだか知らないが、横に伸びてるではないか。

気になってしょうがない。

そこでおっさんは頼んでもない提案をしてきた。

「まずここからアーグラヘ行って2泊、その後ジャイプルで2泊、デリーに戻ってきて飛行機を待つのがいい。これなら180$でチケットとってあげるよ」

(高けぇ~・・・。てか怪しい~!でも安藤もきっともう気付いてんだろうな、こいつの怪しさ)

「高い!!無理!!」

赤い点「高くないです!これが普通の値段です!」

(絶対怪しい・・・流れ的に怪しい・・・あ。安藤もそろそろ戦闘モードに切り替わってる頃かn・・・

「清水君!!こんなもんだって!普通こんなもんだよ!!これにしようよ!」

ええええええぇぇぇぇ!!??

おかしいだろ!!

ついさっき空港でインド人をあんだけ疑ってた人が・・・。

(ん?まてよ・・・?てか、そもそもここは駅の奴が指差した地図の場所と違う気がする・・・)

「ちょっと待って!」
と、俺は地球の歩き方を開いて地図を見た。

さっき駅で説明された地図によると、そのDTTDCの前には交番があるみたいだ。

確かにここはDTTDCに近いけど地図とだいぶ違うなぁ・・・。

(でもここで騒いだら危なそうだなぁ・・・とりあえず安藤をうまく説得してなんとかここを出よう。おっさん少し日本語分かるみたいだし安藤に直接伝えたら危ないなこりゃ・・・)

そりゃもう一人でいろいろ考えたわ。

「しょんべん!!トイレ行きたい!」

俺はおっさんに行って外へ出た。

そして目の前にある唯一の建物が交番か確かめることにした。

建物の前に座ってたインド人に「ここは何?」って聞くと

「え?俺んちだけど?」と言われた・・・。

(嘘じゃん!!DTTDCじゃないじゃん!!)

赤い点を信用しきってる安藤をこのまま置いて俺だけ逃げちゃおうかと思ったのは絶対に内緒だ。

冷静を装って店に戻った。

安藤とおっさんがまだ話してる。

「清水君!やっぱりこんなもんだよ!俺が払ってもいいしツアー組んでもらおうよ!」

安藤先生・・・

俺、バスケがしたいです・・・。

(やっぱりさっき一人で逃げるべきだった!!)
と、この時思ったのは・・・絶対内緒だ!

もういい!!

「とにかく俺は無理!!高い!」

「高くないです!」

おっさんが半分怒ったように言う。

「ダメダメ!!自分達でやるからいい!!」

「分かりました!160$で・・・どうですか?」

(政府機関が値下げするかボケ!!)

「ツアーは組まない!!だけど今日泊まるホテルだけ予約したい!」

「ツアー組まないならホテルも予約できないです!!」

おっさんは顔が引きつってた。

「じゃあお前に用はない!さようなら!行くぞ安藤!!」

俺達は引きとめようとする最初だけ赤い点があったインド人を振り切り強引に外に出た。

「なぁ安藤。地図見てみろよ。ここDTTDCじゃないぜ?」

「マジ?」

 

大通りに出ようと歩き始めるとまたインド人が近寄ってきた。

「どこに行くの!?」

「あーうっさいうっさいどっか行ってくれ」

「あそこはノーガバメント(政府関係じゃない)だぜ!ただのプライベート旅行店だ!ははは!」

とさっきの店を指差すインド人。

やっぱりな・・・。

とにかく俺達はホテルを取らないと野宿するハメになってしまう。

しかもさっきの偽ガバメントで3時間くらい損した。

大通りに出て地図を開くとずーっとインド人がついてきて隣で喋ってる。

「ホテルなら俺が案内してやる!」

「だからいいってば!自分で決めるから!」

「とにかく俺のリクシャーに乗ってよ!ホテル連れてくから!」

「いいってば!」

さらにもう一人インド人が現れ喋ってくる。

「タクシー??」

「いい!!いらない!」

「ホテルか?」

・・・・・・。

俺はインドに来て何かあったら最後の手段で使おうと思ってた単語をかなりの序盤で使った。

 

「あぁぁぁぁぁシャラップ!!!!」

「お前らさっきからうるせぇんだよ!!どっか行けよ!ムカつくなぁ!!もう!!」

もうこの際インド人を怒らせたっていいや!

その前に俺が怒ってるのだ!!

お前らあんまりうるさいと天ぷらにするぞ!!

日本人なめんな!!

インド初日の出来事である。

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