~第13話~いざアーグラへ後編

俺達は例のごとく何人ものインド人の「フレンドリーの押し売り」を掻い潜りメインバザールを抜けニューデリー駅に向かった。

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駅は人でごった返していた。

インドでは「石を投げればインド人に当たる」と言われてるくらいインド人が多いという当たり前の出来事が今日も目の前で起こっているのだ。

もし試しに石でも投げてみれば、この光景からしてその石はきっと地面にたどり着くことはないだろう(泣)

俺達は「2等寝台」という若干VIPなチケットをゲットしていたが、これが「2等自由席」になると乗車率は400%と言われている。

途中知り合った旅人の話では2等自由席でイスなど空いてるわけもなく、さらに立つスペースすらなく、結局知らないインド人のおじさんの上に座ったと言っていた・・・

どうすんだ!

さっきまでなかった感触をお尻に感じたら!!

「あのぉ・・・携帯当たってますよ?」とでも言えばいいのだろうか!

話が脱線したが、脱線するのは話だけにして欲しい。

そう思いながら俺達は鉄道に乗り込むことに成功した。

2等寝台は向かい合う形で4人座れるようになっていてその上にベッドらしきものがついていると言うなんとも画期的なものだった。

そして車内の汚さもそれはそれは画期的なものだった。

まずドアが手動で開きっぱなし。

言っておくが窓ではない、ドアだ。

そして何よりトイレがすごい。

むしろトイレと呼ぶのすら恐れ多い。

もしあれをトイレと呼んだなら今すぐ俺はTOTOに訴えられてしまうんじゃないかと思うとあれはトイレではなく、トイレ風「穴」と呼ばせてもらおう。

4人席には俺達二人と韓国から来た親子が座った。

お母さんと息子で来ていたが、息子は一言も口を聞いてくれなかった。

お母さんの話によると彼は引きこもりでどうしようもないからインドに連れて来たということだったが、もし俺が彼だったらこれを機に就職を考えるだろう。

お母さん!どうしてインドなんだよ!

今すぐ働くから帰ろうよ!!

・・・子供はいつもお母さんの思う壺である。

隣の席に座っていたインド人の女の子はお父さんと乗っていて、駅を出るときにお母さんに見送られ泣いていた。

きっとどこか遠い太平洋の裕福な島国に売り飛ばされてしまうんだろうと勝手な想像をした俺は頭の中で「ドナドナ」を歌いながら涙を堪えていた。

すると彼女はおもむろにポケットから携帯電話を出し笑顔で話し始めた。

なんだよ!

売る側かよ!!

じゃなくて・・・

 

金持ちかよ!!と心の中で突っ込んだ。

インドの貧富の差を改めて実感し、この国に真の平和が訪れるのはいつなんだろうと携帯で話す彼女を見ていたが、彼女のあまりの可愛さでインドの平和のことはどうでもよくなった。

そしてやはり外人である俺は目立つのだろうか、彼女はこっちを見て笑っている。

きっとはじめて見るイケメンな日本人の男にくぎ付けだったのだろう。

その笑顔は女の子が恋をした時の笑顔ではなく、人を馬鹿にしたときの笑顔だったのは言うまでもない(泣)

横からお父さんの物凄い熱い警戒の眼差しをものともせず英語の話せる彼女に俺は思い切って話しかけたのだ。

「さっきまで泣いてたのに~」

と好きな子に話しかける、言葉の選択を間違えた小学生の様に茶化してやった。

なんなく打ち解けて気づけばお父さんも笑っていた。

実は俺ミュージシャンなんだよって話をしたら彼女が目をハートの形にして「歌って!」って言うではないか。

もちろん俺はインドの鉄道でインド人数十人に見守られる中大声で歌った。

感動したのは歌い終わると同時にみんなが大きな拍手で迎えてくれたのだ。

まさか「チューリップの花」で拍手が起きるとは思いもしなかったが笑

ニューデリーからアーグラまでは2駅、途中の駅で停車するとホームには物乞いの子供達がいた。

彼らは旅行者を見つけると世界の車窓から手を出してお金をねだる。

俺はさっきからインド人と溶け込んでいるため気づかれないだろうと思っていたが、あっけなく見つかった(泣)

一生懸命な彼らの姿を見るとなんだか泣けてくる気持ちもあり、かといってその都度みんなにお金をあげてたら帰る頃には俺がそっち側にいることになる(泣)

だから俺は残っていたキャラメルをポーチから出してその汚れた小さな手の上に乗せた。

その子はすぐに袋を開けてキャラメルを小さな口いっぱいに頬張る。

さっきまでの顔が嘘だったかのように(たぶん嘘だが)急に笑顔になる。

そしてまた手を出す(号泣)

運転手さん早く出発して~(泣)

アーグラまでの3時間、俺は少しだけ深くインドを知れたような気がした。